『爪のない指』


見上げていると
雨の隙間を僕が昇っていくようだ
目のなかはもう水溜まりで
波紋に押し遣られてゆく周囲との距離を
ざあざあの音速で離してゆく
まるで何もなかったみたいに

剥がれてくる爪を噛む
けれど爪はもう残り少ないから
もうすぐ眠れなくなる
誰かの指に噛みついて飲み下した赤い薬

爪のない指でつかまえたら
汚してしまう
僕はもう落ちてゆくから
雨を空に還してあげよう




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