・騒動顛末の顛末・
記憶のための記録




東京・築地。某社東京支社。
社内リクリエーションの余興で上映された映画「お江戸からくり橋騒動顛末」。
上映が終わって、制作スタッフと一部の出演者たちが三階の会議室に集まっていた。
テーブルを囲んで、進行役に監督である和泉諒介が正面中央に立っている。
脚本を担当した私、佐倉蒼葉はその対面である下座に座っていた。




諒介「えー、皆さんお疲れさまでしたっ。まずは乾杯」<仕事用マヂ顔
全員「かんぱーい」
諒介「で、今回も反省会やるんですが……みんな聞いてる?」
全員「ごくごく、まくまく」
  聞いてやしねえ。
  憮然とした諒介、食い物がなくならないうちにと座って食い始める。
矢島「みんな今回どうだったかな。佐倉さんは随分キャスティングにこだわってたようだけど?僕が同心で、御用聞きに部下の中嶋君を持ってくるなんてのは、やっぱり本編を意識してのことでしょう?」
古田「佐々木さんの絵師なんてのもそうだねえ。彼女、漫画描くの趣味だもの」
澤田「矢島部長の話やとみんな聞くんやな。人徳の違いや」
  全員力一杯頷く。
市川「設定はいいんだけどさあ、詰めが甘いよ。何で着物の描写が全然ないのよ!私、売れっ子芸者なんでしょ?きっといいの着てたんだろーなー」
佐倉「……だって着物の柄なんて全然わかんないんだも」
市川「私はいいけど、せめて主役の泉ちゃんの着物くらいはさ…」
古田「僕らはあんなに大変な思いして衣装着けてるのに、全然書いてくれないんだものねえ」
中嶋「かつら、痛かったですよね」
古田「痛かったねえ。いいよね和泉はかつらなしで。澤田はつけ毛でポニーテールにするだけだし」
澤田「ポニーテールて言うなあ!」<鳥肌
古田「詰めが甘いって言ったら、ストーリーの中核とも言うべき僕の悪事だってお粗末だったし。もっと頭使っていろいろ考えてさあ…フフ、フフフ」
澤田「そら古田なら悪の限りを思い尽くせるやろ」
由加「佐倉さんは悪人書くの苦手なんだよ。自分が嘘吐いたりっての嫌いなんだもの」
古田「でも僕ら出番少なかったよねえ」
市川「少なすぎー!悪役は時代劇の華なのに。おかげで矢島部長も出番一瞬じゃん」
矢島「まあ、それはともかく、主役の二人“貧乏浪人とかわらばん屋”っていう設定はリクエストをいただいた、ということで」
全員「ありがとうございましたー!」
  全員“そちら”へとにこやかにお辞儀。
澤田「俺の貧乏浪人ての、何で“貧乏”て付くねん」
佐倉「澤田だから」<きっぱり
古田「似合ってたねえ澤田様」
市川「格好良かったよ澤田様」
中嶋「澤田様」
佐倉「澤田様」
矢島「澤田様」
澤田「部長まで言わんでくださいっ!」<赤面
佐倉「だって、由加に『澤田様』と呼ばれる澤田が見たい、っていうリクエストだったんだもん」
矢島「うん、実にナチュラルな演技で良かったね」
古田「演技だったの?あれ」
澤田「演技やがな!芝居やろ!」<赤面
矢島「うんうん。演技とは思えない程だったね。和泉君も」
澤田「あれは素ですよ」
中嶋「和泉さん、『月次』でおにぎり食う場面の後、次の出番までここでカレーパンとヨーグルト食べてましたよ」
  全員胸焼け。
古田「今度の健康診断の時に和泉のレントゲン写真を公開するのはどう?」
澤田「和泉の演技はどーでもええんか」
市川「そうそう、和泉君が三味線弾けるのには驚いたよね。中嶋君の結婚式ではピアノ弾いてたけど。奴も謎の多い男だね」
澤田「初めてやって言うてたで?三味線持って会社通って、死ぬ程練習したて」
矢島「彼は努力家だからね。ところで最後の主役、泉さんの演技はどうだった?」
澤田「うーん…セリフ棒読みやったな」
中嶋「画面を定規が走り回ってるみたいでしたね」
古田「それでミョ〜に溌剌としてたのね」
由加「…もうだめ。恥ずかしくて死んじゃう」<机に突っ伏し
澤田「俺も恥ずかしいわ」
市川「上映終わった後、他のフロアの子らが目ぇう〜るうるさせて澤田君を見てたよ」
古田「フフ、株が上がって良かったじゃないか」
澤田「古田の株は底まで落ちたしな」
佐倉「うん。本編じゃ出来ないことやって遊ぼう!って思って」
古田「もてる澤田か。そりゃ現実に有り得ないよねえ」
佐倉「もてあそばれる澤田はいつも通りだったけどねえ」
  あははははははははは。(全員さわやかな笑い)
澤田「いっぺんお星様になって来い」(佐倉、椅子五脚の下敷き)
矢島「脚本家の佐倉さんとしてはどうだった?書いていて一番楽しかった場面とか苦労した点とか」
佐倉「一番楽しかったのは、澤田と白井の殺陣。アクションは苦手なんだけど、すごく気合い入れて書きました。苦労したのはやっぱり諒介の芸者遊びでしょ」
  諒介、ビールにむせかえる。
市川「お、大丈夫ですか監督」
矢島「どうしました監督」
諒介「いぢわる…」<机に突っ伏し
市川「白井さんで思い出したけどさ、あの人のことはっきりしないまま終わっちゃったじゃない。諒介との過去とかさ」
中嶋「映画なんかによくある手法ですよね。続きがありそうな雰囲気で終わる奴」
矢島「和泉君、まさか続編も撮るの?」
和泉「………脚本家に訊いてください」<突っ伏したまま
佐倉「続編はありません!書けないよ、もう。本当に、余韻を持たせようという映画的手法を取っただけで…。作者的には意味がちゃんとあるんだけどね。へへー」
市川「あ、それ気になるなあ」
佐倉「本編をお読みください」
全員「結局それかあ!」
佐倉「いや、その…。本編読まなくてもいいように書いてあるんだけどさ…」
市川「なら読まなくていいじゃん」<ひどい
古田「意味か。それってオールキャスト登場っていうのも意味があるの?」
佐倉「うん。まあ一応ね」
澤田「うちの犬まで出すのは大変だったやろ。そこまでせいでもええのに」
佐倉「や、せっかくだからみんな出そうかなーなんて」
諒介「だからって何もお袋まで出すことはないでしょう」<涙目
矢島「まあまあ。『必殺仕事人』でもお約束のシーンだったじゃないか、ああいうの。和泉君と言えばお母さんの説教だろう」
諒介「部長………」<遠い目
佐倉「現時点で発表済の八話までに登場する人物は一人残らず出した…と思う」
  おおおーっ。(全員拍手喝采)
佐倉「『両親も亡く』なんていう記述も含めてなんだけど。自分でも無理してるなあとは思った」
諒介「無理するくらいなら、お袋出さなくても……」
佐倉「んー。最初にもらったアイディアだと、澤田といずみーずだけ江戸時代にぽんと送って、ドタバタさせるだけで良かったんだ。だけど、勝鬨橋があったから。ギャグとして書きやすいように出した勝鬨橋だったんだけど、そうしたらそこはもう、君たちの世界だった。それでもう、全員出ることになっちゃったんだな、これが」<苦笑
  背後をギップルが通過。
佐倉「それにこうしてアイディアを貰わなかったら、絶対に書かなかったと思うのね。書いててすごく楽しかった。書かせてもらって、だからギャグでも本編や他作品と並ぶレベルの作品にしたかった。それが佐倉の書き手根性だと思うし」
古田「それでこんなに長くなっちゃったのね」
全員「読んでくれた方、お疲れさまでしたー!」
  全員“そちら”に向かってにこやかに手を振る。
諒介「だったらヒッチコックみたいに、自分も出れば良かったのに」
佐倉「出たよ。ラストで母上様が乗って来た駕篭、あの駕篭かき後ろの、私だもん」
  あははははははははは。(二人さわやかな笑い)
諒介「余計な真似しやがって!」(佐倉、ロッカー三台の下敷き)
矢島「ところでこういうの、あれだね」
澤田「楽屋オチですか?」
矢島「先に言われてしまった」
古田「フフ、澤田。おまえ出世できないよ」

[CAST from BAND-AID BRIDGE]

由/泉由加(入力室) 澤田智之進/澤田智彦(開発部) 諒介/和泉諒介(第三開発)

月次/泉和宏 さき/佐々木(入力室) 市/市川(入力室)

嶋吉/中嶋誠二(開発部) 雪/飯塚雪枝(入力室)
しん/森(入力室) 矢島/矢島(開発部)

澤田の兄/澤田浩平(3話) 咲/澤田咲子(3話)
河上総兵衛/河上(第三開発) 高橋/高橋(第三開発)

杉/杉田(入力室) 松/松岡(退職) こう/大河内(入力室)
まち/山口(入力室) 浜/浜崎(入力室)

カツ/中嶋にカツサンドを返して欲しい俺(4話)
勝鬨橋で由を突き飛ばした娘たち/蓼食い虫さん他(4話)
なすび/新橋おでん屋の客(6話)
芸者2人/デパガ2人(1話) 料亭の用心棒/里美の会社の守衛さん(1話)
転んだ坊主/ひろし君(1話)
ゆかり/橋口ゆかり(3話) 直人/橋口直人(3話) 料亭の女将/橋口姉弟の母(3話)
二枚目役者/逢坂仁史(1話)
駕篭かき前/新幹線乗客(9話)
勝鬨橋で由に声をかけた女/池袋駅で由加を呼び止めた里美の会社の人(5話)

古田の女房子供/真紀子さん・まなかちゃん・勇くん
故人のみなさん/由加と澤田の両親 澤田家の犬/源二郎

古田稔右衛門/古田稔(開発部)

白井幸之助/白井正幸

里美/飯島里美 めぐむ/村瀬めぐむ 香奈/村瀬香奈子 母/和泉の母