忘れられない色が、ある。
木漏れ日溢れるきらきらした朝、その光。
お気に入りの小さな神社、清浄な空気。
木々の涼しい陰、神様の宿る場所。
・・・ふにゃっと微笑む優しいあのひと。バーバリーチェックのワンピース。
何も言わず、朝早く起き出して神社まで歩いて来てしまったのは、きっとよく眠れたせい。
あのときはまだ暑くて、ワンピース一枚で木陰にいても汗ばむ心地がして。
葉の緑が目に眩しいほどだったのに。
今では空気を白く染めつつひなたを選び、ウールのセーターの上にダッフルコートを着込んで立っている。
白や薄紅、濃紅の梅の花が凛とした姿で枯れたような枝に咲き誇っていて。
もうそんな時期なんだな。
時の流れはゆるやかに速く、気が付けば瞬く間に時は過ぎている。
くちびるだけで名前をつぶやいてみる。
梅の香が風と一緒に肌を撫でてゆく。
元気かな。
どうしてるのかな。
私とあなたはとても似ていて。
あのときはふたりともひどく不安定で。
・・・私は今もかな。
共鳴しあうように心に響くものがあった。
そのことは嘘じゃない。
・・・・私たち、出会えたことは嘘じゃない。
「元気かな」
くちびるから無意識に言葉が零れる。
・・・ああ。もう戻らないと。
心配して彼が私を探しはじめる、その前に部屋に戻っておかなくちゃ。
足を帰路に向け、最後に境内を振り返る。
同じ場所なのに違って見えるのは冬と夏の違いの所為。
流れ落ちた時間の所為?
あなたのいるそこはあたたかいのかな。
子供のようにぐっすりと、やすらかに眠れるのかな。
そうであればいい。
たとえ二度と会うことが叶わなくても。